深夜のYouTubeで「Plastic Love」に出会ってしまった、Spotifyのバイラルチャートで「真夜中のドア」が世界1位になったと聞いた──2020年前後、シティポップは日本人が輸出した覚えのないまま世界的ジャンルになった。本稿では、この不思議な再評価の経緯と、最初に聴くべき5枚、そして「シティポップとは結局何なのか」までを案内する。アンビエント入門で書いた日本環境音楽の再発見と、実は同じ物語の別の章である。
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シティポップとは何か──ジャンルではなく「都市の気分」
シティポップに厳密な定義はない。おおまかには、1970年代後半〜80年代の日本で作られた、洋楽(AOR、ソウル、ファンク、ボサノヴァ)を消化した都会的なポップス群を指す。はっぴいえんど解散後の細野晴臣・大滝詠一らティン・パン・アレー人脈が土壌を作り、スタジオミュージシャンの超絶的な演奏力と、バブルへ向かう東京の空気がそれを育てた。
重要なのは、当時「シティポップ」という自覚でこれらの音楽が作られたわけではないことだ。この名前は後から、それも半分は海外から貼られたラベルであり、だからこそ輪郭が曖昧で、掘る楽しみが尽きない。
再評価はどこから来たか
発火点はインターネットだった。2010年代半ば、ヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクといったネットジャンルが竹内まりや「Plastic Love」(1984)らをサンプリングし、YouTubeのレコメンドがそれを世界中の深夜に配り続けた。2020年にはインドネシアの歌手Rainychのカバーをきっかけに松原みき「真夜中のドア〜stay with me」(1979)がSpotifyのグローバルバイラルチャートを制覇。米レーベルLight in the Atticのコンピレーション『Pacific Breeze』シリーズが批評面の裏付けを与え、再発盤とアナログ市場が沸騰した。アルゴリズムとレコード掘りが同時に起こした、史上まれな再評価である。
最初の5枚
1. 山下達郎『FOR YOU』(1982)
シティポップの音響的到達点。「SPARKLE」冒頭のカッティング一発で夏の湾岸道路が見える。演奏・録音・アレンジのすべてが異常な精度で、40年経っても音が古びない。まず1枚ならこれ。
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2. 大貫妙子『SUNSHOWER』(1977)
シュガー・ベイブ解散後の2作目。坂本龍一の編曲によるジャズ/クロスオーバー色の濃い都会的ソウルで、近年の再評価では海外DJからの支持が特に厚い1枚。「都会」の孤独と洗練が同居する、シティポップの陰の名盤。
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3. 竹内まりや『VARIETY』(1984)
「Plastic Love」を収録した、再評価の震源地。夫・山下達郎のプロデュースによる完璧な職人仕事で、シングル的な曲の強さならシリーズ随一。世界中のリスナーが「なぜこの曲が80年代の日本にあったのか」と混乱した、その理由を確かめてほしい。
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4. 松原みき『POCKET PARK』(1980)
「真夜中のドア〜stay with me」を収録したデビュー作。作編曲は林哲司ら職人陣で、19歳のボーカルの艶と洗練されたコード感の組み合わせは今聴いても鮮烈だ。バイラルヒットが一発屋的な偶然ではなく、アルバム全体の質に裏打ちされていたことがわかる。
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5. 佐藤博『awakening』(1982)
マニア筋の最終回答のひとつ。LinnDrumと多重録音を駆使してほぼ独りで作り上げた宅録シティポップの金字塔で、AOR、ブギー、アンビエントの中間に浮かぶ音像は現行のベッドルームポップの先取りですらある。再発で世界的に高騰した1枚。
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どう聴くか──「懐かしさ」は入口であって出口ではない
- 音の精度を聴く。シティポップの核はノスタルジーではなく、スタジオワークの緻密さ。ベースラインとコーラスワークに耳を置くと世界が変わる
- アナログ盤と相性が良い。この時代の録音はレコード再生を前提に設計されている。再発盤が豊富な今は入手も容易だ
- 系譜で掘る。はっぴいえんど→ティン・パン・アレー→各ソロという幹を押さえると、無数の枝(寺尾聰、吉田美奈子、山根麻衣…)が一気に繋がる
ここから先へ
コンピレーションなら『Pacific Breeze』シリーズが定番の入口。日本語ロックの源流に遡るなら、DIGEST 002でも「義務」と呼ばれていたはっぴいえんど『風街ろまん』へ。そして環境音楽側の再評価(吉村弘・芦川聡)についてはアンビエント入門で詳しく書いた。80年代日本の音楽は、ポップスも環境音楽も同じ「豊かさと空白」から生まれている──2つの記事を並べて読むと、その景色が見えるはずだ。
まとめ
シティポップの再評価は「日本すごい」の物語ではない。国境もリアルタイム性も飛び越えて、良い録音は必ず発見されるという物語だ。40年前の東京の深夜が、今夜もジャカルタやロサンゼルスの深夜に流れている。まずは『FOR YOU』のA面から。
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「Plastic Loveをリアルタイムで知らない世代が、いちばんPlastic Loveを聴いている」という逆転が私は好きだ。音楽の価値はリリース日に確定しない。このサイトで古い名盤を紹介し続けるのも、再生ボタンを押した瞬間がその人にとっての「新譜」だと思っているからです。

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