ポストロック入門──歌のないドラマを聴く最初の5枚

ロック・オルタナ

ボーカルがいないのに、映画を1本観たような気持ちになる──ポストロックを初めて通して聴いた人の感想は、だいたいこれに近い。歌の代わりに反復と音量差で物語を作るこのジャンルは、オルタナ入門で触れた「引き算と余白」の美学を、曲構造そのものに適用した音楽だ。本稿では誕生の経緯から最初の5枚、ライブという最終形態までを案内する。

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ポストロックとは──「ロックの楽器でロックじゃないことをする」

言葉としての「ポストロック」は、1994年に英国の批評家サイモン・レイノルズが広めたとされる。定義は「ロックの楽器編成を使いながら、ロックの型(ヴァース→コーラス、歌中心)から離れた音楽」。ギター・ベース・ドラムはそのままに、目的地だけを変えた音楽と言ってもいい。

源流には2つの水脈がある。ひとつはオルタナ入門でも触れたTalk Talk『Spirit of Eden』(1988)とSlint『Spiderland』(1991)が示した「静寂と間の設計」。もうひとつはドイツのCAN、NEU!らクラウトロックの「反復の快楽」だ。歌の物語に頼らず、音響と時間で聴かせるという発想がここで合流した。

最初の5枚

1. Slint『Spiderland』(1991)

すべての設計図。囁きと語りのヴァース、そして予告なく落ちてくる轟音。6曲44分、無駄な音はひとつもない。録音時メンバーはまだ20歳前後で、完成後まもなくバンドは解散。この「続きのなさ」も含めて神話になった1枚だ。緊張感に慣れるまで数回かかるが、慣れた頃には戻れなくなっている。


2. Tortoise『Millions Now Living Will Never Die』(1996)

シカゴ音響派の中心バンドによる2作目。冒頭21分の「Djed」は、ダブ、ミニマル、エレクトロニクスがロックバンドの編成で溶け合う実験室で、「ポストロック」という言葉が指す範囲を一気に広げた。轟音系とは別の、クールで知的なポストロックの起点。

3. Mogwai『Young Team』(1997)

グラスゴーの轟音番長のデビュー作。静と動の落差を極限まで広げた「Like Herod」は、油断して音量を上げていると心臓に悪い(褒めている)。終曲「Mogwai Fear Satan」の16分は、ギターノイズが浄化に変わる瞬間を体験できる、ジャンル屈指のクライマックスだ。


4. Sigur Rós『Ágætis byrjun』(1999)

アイスランドから届いた氷河の音楽。ボーカルはあるが、造語(ホープランド語)で歌われるため意味からは自由だ。チェロの弓で弾かれるギター、荘厳なストリングス。「歌詞がわからないのに泣ける」という体験は、音楽が言語より先にあることの証明である。


5. toe『the book about my idle plot on a vague anxiety』(2005)

日本のポストロックを世界基準にした1枚。轟音に頼らず、2本のギターの編み物と、柏倉隆史の人力ドラムの跳ねだけで景色を変えていく。手数は多いのに音数は少ないという逆説的な美学は、海外のマスロック/ポストロック勢にも大きな影響を与えた。


聴き方のコツ──「展開を待つ」音楽

  • 1曲を最後まで聴く。ポストロックの感動は8分目以降に置かれていることが多い。サビを待つ聴き方ではなく、登山のように聴く
  • 音量差を殺さない。静のパートに合わせて音量を決めると、動が来たときに世界が変わる。通勤中より、部屋でまとまった時間に
  • 「ながら」も実は合う。歌詞がないぶん読書や作業と共存できる。アンビエントと同じ棚に置ける音楽でもある

ここから先へ──爆発か、静寂か

轟音の物語性を極めたいならGodspeed You! Black Emperor『Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven』(2000)とExplosions in the Sky、日本の轟音ならMONO。静寂側に降りるならスロウコアのLow、そしてTalk Talkの遺産を継ぐBark Psychosisへ。ライブで浴びるポストロックは音源の数倍の体験になるので、来日情報はフェスカレンダーともども追いかけてほしい。

まとめ

歌がないことは、欠落ではなく設計だ。物語を言葉で語らないぶん、聴き手の記憶や風景が音の中に流れ込む。ポストロックが「映画のようだ」と言われるのは、スクリーンが空白だからである。まずはSpiderlandの緊張から、あるいはÁgætis byrjunの荘厳から。

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ポストロックのライブで一番好きな瞬間は、轟音が来る直前の、会場全体が息を止めるあの数秒だ。「そこにない音を聴け」というサイト名の感覚に一番近い時間かもしれない。toeのライブはいつか必ず観てほしい。音源の印象が全部書き換わるから。

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