ミニマル・ミュージックとは、短いフレーズの反復とごくわずかな変化だけで組み立てる、1960年代のアメリカに生まれた音楽である。劇的な展開がなくても深い陶酔が生まれることを証明し、テクノやポスト・クラシカルの源流になった。四人の創始者と技法、名曲10選、挫折しない聴き順までを案内する。
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- ミニマル・ミュージックとは何か——「引き算」がもたらした転回
- 四人の創始者——ヤング、ライリー、ライヒ、グラス
- 技法をやさしく解説——フェイズ、加算プロセス、ドローン
- 名曲10選——反復の快楽を知る
- テリー・ライリー「In C」(1964)
- スティーヴ・ライヒ「It's Gonna Rain」(1965)
- テリー・ライリー「A Rainbow in Curved Air」(1969)
- スティーヴ・ライヒ「Drumming」(1971)
- フィリップ・グラス「Music in Twelve Parts」(1971-74)
- スティーヴ・ライヒ「Music for 18 Musicians」(1976)
- フィリップ・グラス「Einstein on the Beach」(1976)
- フィリップ・グラス『Glassworks』(1982)
- スティーヴ・ライヒ「Different Trains」(1988)
- ラ・モンテ・ヤング「The Well-Tuned Piano」(1964-)
- ポップスとテクノへの影響——反復は世界を征服した
- 初めて聴く人の順路——挫折しないための7ステップ
- まとめ——繰り返しの中にしか聴こえない音がある
ミニマル・ミュージックとは何か——「引き算」がもたらした転回
ミニマル・ミュージックの定義は、実のところ単純だ。素材を極限まで切り詰め(短い音型、少ない和音、一定の拍)、それを反復し、時間をかけて少しずつ変化させる音楽である。1960年代のアメリカ西海岸と、ニューヨークのロフトやギャラリーで生まれ、コンサートホールの外側から音楽史を書き換えた。「ミニマル」という呼び名は、同時代の美術——単純な立体や色面を反復するミニマリズム——からの借用で、批評家であり作曲家でもあったマイケル・ナイマンが広めた言葉とされる。
この音楽が革命的だったのは、当時の「現代音楽」の常識を正面から裏切ったからだ。20世紀半ばの前衛音楽は、十二音技法やセリエリズムと呼ばれる方法のもと、複雑さと不協和を極める方向へ進んでいた。聴衆の大半が置き去りにされる中で、ミニマルの作曲家たちは、調性(ドレミの心地よさ)と一定の拍(ビート)を臆面もなく取り戻す。単純であることを恥じない。繰り返すことを恐れない。これは保守回帰ではなく、複雑さの競争から降りるという、もうひとつの前衛だった。
彼らの耳を開いたのは、西洋の外の音楽である。西アフリカの太鼓のポリリズム、インドネシアのガムラン、インドの声楽やラーガ。これらの伝統音楽は、そもそも「反復と持続」を音楽の当たり前の姿としてきた。ライヒはガーナで太鼓を学び、ライリーとヤングはインド声楽の大家プラン・ナートに師事している。ミニマル・ミュージックとは、ヨーロッパ中心の音楽観から出て、世界の音楽の広さに合流しようとした運動でもあった。
聴き手にとって重要なのは、この音楽では「変化」の起きる場所が普通と違うという点だ。ロックやポップスでは、変化は音の側で起きる(サビが来る、転調する)。ミニマルでは、音はほとんど変わらないまま、聴いている自分の知覚の側が変わっていく。同じフレーズが、5分後には違う模様に聴こえる。どの楽器を追うかで風景が一変する。楽譜に書かれていない旋律——実際には誰も弾いていないのに、反復の干渉から浮かび上がってくる音型——が聴こえ始めることさえある。反復は退屈の同義語ではなく、知覚の解像度を上げるための装置なのだ。

四人の創始者——ヤング、ライリー、ライヒ、グラス
ミニマル・ミュージックの歴史は、しばしば四人の名前で語られる。ラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス。同じ潮流に括られるが、四人の音楽はそれぞれ驚くほど違う。
ラ・モンテ・ヤング(1935年生まれ)は、持続音——ドローン——の人である。1958年の「Trio for Strings」で、すでに音を極端に長く伸ばすことを試み、60年代のニューヨークでは前衛芸術運動フルクサスに関わりながら、指示文だけでできた作品(直線を引いてそれをたどれ、という類の指示書)まで発表した。ジョン・ケイルらと組んだ楽団シアター・オブ・エターナル・ミュージックでは、増幅された弦と声で何時間も持続する音の壁を作り、妻マリアン・ザジーラの光の作品と一体化した音響空間「ドリーム・ハウス」をニューヨークに常設している。音楽を「聴く」ものから「その中に住む」ものへ変えた人物だ。
テリー・ライリー(1935年生まれ)は、反復を解放した人である。1964年の「In C」でミニマルの扉を開いたのち、テープの遅延装置やオルガンの多重録音を使った即興的な作品へ進み、「A Rainbow in Curved Air」(1969)では、のちのエレクトロニカを20年以上先取りしたような万華鏡的音響を一人で作り上げた。厳格な設計者というより、反復の上を漂う即興家であり、その飄々とした自由さは四人の中でも際立っている。
スティーヴ・ライヒ(1936年生まれ)は、過程(プロセス)の設計者である。テープレコーダーの偶然から「フェイズ・シフティング」という技法を発見し、1968年の小論「漸進的過程としての音楽」で、仕組みそのものが聴こえる音楽という美学を宣言した。ガーナでの太鼓の研究を経て、打楽器的なアンサンブルによる精密で身体的な音楽を確立し、「Music for 18 Musicians」(1976)でひとつの頂点に達する。四人の中で、現在のポピュラー音楽への直接的な影響がもっとも大きいのはおそらくライヒだ。
フィリップ・グラス(1937年生まれ)は、劇場の人である。パリで名教師ナディア・ブーランジェに学び、同地でインドのシタール奏者ラヴィ・シャンカルの映画音楽の採譜を手伝ったことが転機となった。帰国後は電気オルガンと管楽器による自身のアンサンブルを率い、音を一つずつ足していく「加算プロセス」で増殖する音楽を作る。演出家ロバート・ウィルソンとのオペラ「Einstein on the Beach」(1976)で名声を得たが、その後もしばらくタクシー運転手や配管工の仕事で生計を立てていたことは有名だ。ちなみに若き日のライヒとグラスが、生活のために二人で引っ越し業を営んでいた時期があるというのも、よく知られた逸話である。
乱暴に整理すれば、ヤングは「持続」、ライリーは「反復と即興」、ライヒは「過程」、グラスは「増殖と劇場」。この四つの極のあいだに、ミニマル・ミュージックの地図はほぼ収まる。
もっとも、この地図には余白があることも言い添えておきたい。四人より少し後の世代では、ジョン・アダムズが「Shaker Loops」などでミニマルの語法をより劇的な管弦楽へ拡張し、「ポスト・ミニマル」と呼ばれる領域を開いた。ヨーロッパに目を移せば、アルヴォ・ペルトやヘンリク・グレツキらの静謐な様式が「聖なるミニマリズム」と括られることがある。また、生前は正当な評価を得られないまま世を去り、近年になって急速に再発見が進むジュリアス・イーストマンのように、この音楽の歴史はいまも書き直されている途中だ。四人の物語は入口として便利だが、決定版ではない。
技法をやさしく解説——フェイズ、加算プロセス、ドローン
ミニマルの面白さは、仕組みが分かるほど深まる。専門用語を三つだけ、身近なたとえで押さえておこう。
フェイズ・シフティング(位相のずれ)。まず「かえるのうた」の輪唱を思い浮かべてほしい。輪唱は、同じ旋律を決まった間隔でずらして重ねる。フェイズ・シフティングはその間隔が固定されていない輪唱だ。同じフレーズを二つ同時に鳴らし、片方だけをほんのわずかに速くする。最初はひとつに聴こえていた音が、やがて微妙なエコーになり、ズレが開くにつれて、誰も弾いていないはずの複雑な綾模様が立ち上がり、一周して再びぴたりと重なる。ライヒはこの現象を、説教師の声を録音した2台のテープレコーダーの再生速度がわずかに違っていたという偶然から発見した(「It’s Gonna Rain」1965)。のちに「Piano Phase」(1967)で、これを機械ではなく人間の演奏でやってのける。ズレそのものを音楽にした、ミニマル技法の核心である。
加算プロセス(足し算の作曲)。フレーズに音を一つずつ足していく方法だ。たとえば「ドレ」を何度か繰り返したら、次は「ドレミ」、その次は「ドレミファ」と、少しずつ長くしていく。逆に一つずつ引いていく減算もある。グラスの音楽を聴いていると、同じ場所を回っているようで、いつの間にか景色が変わっている——あの「増殖する渦」のような感覚の正体がこれである。原理は算数のように単純なのに、体感はきわめて生理的で、うねりに呑まれるような快感がある。
ドローン(持続音)。変化の対極、つまり「変わらない音」を聴く技法である。一つの音、あるいは一組の音を、延々と鳴らし続ける。すると耳は、その音に含まれる倍音——一つの音の中に隠れている、より高い成分の音たち——を聴き分け始める。ヤングはこの倍音の響きを最大限に美しくするため、ピアノの調律そのものを純正律(音と音のうなりが消えるように整えた、ピアノの標準とは異なる調律)に変えることまでした。何も起きない音の中に、実は無数の音が住んでいる。ドローンはそれを発見するための顕微鏡だ。
三つに共通するのは、ライヒの言う「漸進的過程」、つまり一度動き出したら自動的に進んでいく仕組みを、隠さずに聴かせるという態度である。作曲家は音楽を「作る」というより、プロセスを設計して「起きるのを見守る」。聴き手も同じで、次の展開を予想する聴き方から、いま起きている微細な変化を観察する聴き方へ切り替えたとき、この音楽は一気に面白くなる。
なお、これらの技法は突飛な発明というより、音楽史の古層との再会でもある。フェイズは輪唱(カノン)の極端な形と言えるし、加算プロセスは変奏技法の一種、ドローンは教会のオルガンやインドのタンブーラが何百年も担ってきた役割だ。ミニマルの新しさは素材そのものではなく、それ「だけ」で音楽を成立させた純度にある。そしてもうひとつ、反復には理屈を超えた身体的な効果がある。一定の拍を浴び続けると、呼吸や体の感覚が音楽の周期に寄っていき、軽いトランスに似た状態が訪れる。ダンスミュージックが経験的に知っていたこの生理を、コンサート音楽の言葉で組織し直したのがミニマルだった、という言い方もできるだろう。
名曲10選——反復の快楽を知る
ここからは、ミニマルの歴史を体感できる10曲(10作品)を、おおむね年代順に紹介する。1曲が長いものも多いので、完聴を義務にせず、まず10分ずつでも浸ってみてほしい。
テリー・ライリー「In C」(1964)
ミニマル・ミュージックの独立宣言と呼ばれる作品。楽譜はわずか1ページ、53個の短い音型が並んでいるだけで、奏者は各自の判断で次の音型へ進んでいく。人数も楽器も自由、演奏のたびに姿が変わるが、全員が「ド(C)」を軸にした響きと一定の拍を共有しているため、どんな演奏でも輝くような雲のうねりが生まれる。初演にはライヒも参加し、全体を支える8分音符のパルスは彼の提案だったと伝えられる。まずは1968年録音の盤から聴きたい。
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スティーヴ・ライヒ「It’s Gonna Rain」(1965)
サンフランシスコの広場で録音した説教師の声を、2台のテープレコーダーで同時再生したときの偶然のズレから生まれた、フェイズ・シフティングの原点。同じ言葉の断片が繰り返されるうち、声はしだいに言葉であることをやめ、リズムと響きの渦に変わっていく。音響実験でありながら、終末を説く声の切迫感が生々しく残る点も強烈だ。ミニマルの出発点が「歌」でも「楽器」でもなく、人間の声だったことは覚えておいていい。
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テリー・ライリー「A Rainbow in Curved Air」(1969)
ライリーがオルガンやハープシコードを一人で多重録音して作り上げた、電子の万華鏡のような作品。きらめくアルペジオ(和音を一音ずつ分散して弾く奏法)が幾層にも回転し、聴いているうちに時間の感覚が溶けていく。ロックへの影響も大きく、ザ・フーが「Baba O’Riley」の曲名に彼の名を刻み、バンド名を本作から取ったカーヴド・エアまで現れた。後のシンセ音楽、アンビエント、エレクトロニカの多くが、ここから枝分かれしたと言っても大げさではない。
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スティーヴ・ライヒ「Drumming」(1971)
ガーナでエウェ族の太鼓を学んだライヒが、その体験を消化して書き上げた約90分の打楽器絵巻。ボンゴ、マリンバ、グロッケンシュピールが同じ音型を叩き続け、フェイズのズレと交代の中から、女声やピッコロが「実際には誰も演奏していない旋律」をすくい上げてなぞっていく。反復の中に幻聴のような音型が浮かぶというミニマルの快楽を、これほど大規模に組織した作品は他にない。ライヒ前期の集大成である。
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フィリップ・グラス「Music in Twelve Parts」(1971-74)
グラスが自身のアンサンブルのために書いた、演奏に3時間を超える加算プロセスの百科全書。電気オルガンと管楽器と声が一体になって疾走し、音が一つ足されるたびに、渦の回転数が上がっていく。全部を一度に聴く必要はなく、どのパートから入っても「増殖する音楽」の生理的な快感は十分に味わえる。グラス特有の、荘厳さと軽やかさが同居した音色感覚は、この時期にほぼ完成した。
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スティーヴ・ライヒ「Music for 18 Musicians」(1976)
ミニマル・ミュージックという枠を超えて、20世紀後半の音楽全体の到達点のひとつに数えられることが多い傑作。マリンバやピアノの刻む速いパルスの上で、11個の和音がゆっくりと循環し、管楽器と声は奏者の呼吸が続く長さだけ音を伸ばす——機械のような精密さと、身体の温かさが完全に両立している。1978年にジャズの名門ECMから発売され、現代音楽としては異例の広がりで聴かれた。ミニマル入門の最初の一枚を選ぶなら、多くの人がこれを挙げるはずだ。
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フィリップ・グラス「Einstein on the Beach」(1976)
演出家ロバート・ウィルソンと組んだ、上演約5時間・休憩なしのオペラ。物語らしい物語はなく、歌詞にあたる部分は数字や音名の唱和で構成され、観客は途中で自由に出入りしてよいとされた。アインシュタインという20世紀の神話を、筋書きではなく時間の体験そのものとして舞台化した問題作である。1976年のアヴィニョン音楽祭で初演され、メトロポリタン歌劇場でも上演されたが、興行としては赤字だったという逸話も含めて伝説になった。まずは「Knee Play」と呼ばれる幕間の楽章群から聴くと入りやすい。
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フィリップ・グラス『Glassworks』(1982)
グラスが「自分の音楽への入口」として意識的に作った、6曲入りの小品集。静かなピアノで始まる冒頭の「Opening」は、彼の書いた音楽の中でもっとも広く愛されている数分間だろう。オペラの長大さに尻込みする人でも、ここからなら無理なく入れる。当時のカセット版に携帯プレーヤー向けの特別ミックスが用意されていたという事実も、「歩きながら聴く現代音楽」という新しい聴かれ方を先取りしていて興味深い。
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スティーヴ・ライヒ「Different Trains」(1988)
弦楽四重奏と録音された語りのための作品で、クロノス・クァルテットの演奏により発表された。幼少期のライヒが大陸横断列車で往復した記憶と、同じ時代のヨーロッパでユダヤ人を運んだ列車の記憶とを、生存者や乗務員の語りの断片を通して重ね合わせる。語りの抑揚をそのまま弦楽器の旋律に写し取る手法が、記録と音楽の境界を消してしまう。反復の技法が歴史の証言と結びついた、ミニマル後期の金字塔であり、グラミー賞(現代クラシック作品部門)も受けている。
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ラ・モンテ・ヤング「The Well-Tuned Piano」(1964-)
純正律に調律されたピアノをヤング自身がひとりで弾き続ける、5時間を超える即興的大作。1964年に着想されて以来、演奏のたびに成長を続け、1981年の演奏を収めた録音が1987年に発表された。雲のような倍音のうねりの中に、時折ぽつりと旋律が浮かんでは消える。正直に言って入門向けではないが、ミニマルの源流にある「音の中に住む」という感覚を知るには、いつかここまで降りてくる必要がある。反復の彼方にある、静止した時間の音楽だ。
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ポップスとテクノへの影響——反復は世界を征服した
ミニマル・ミュージックの影響史は、そのままポピュラー音楽の裏面史になっている。最初の合流点は1960年代のニューヨークだ。ヤングの楽団に参加していたジョン・ケイルは、そのドローンの発想を持ってヴェルヴェット・アンダーグラウンドに加入し、「Venus in Furs」などに響く持続音のヴィオラとして結実させた。ロックがアートと出会った瞬間の背後に、すでにミニマルがいたことになる。1971年にはザ・フーが「Baba O’Riley」で、ライリー由来の反復するオルガン・パターンをスタジアム・ロックの真ん中に持ち込んだ。
ドイツでは、クラウトロックと呼ばれる一群がほぼ同時代に「反復の快楽」へ到達していた。カンの創設者イルミン・シュミットは1960年代のニューヨークでライリーやヤングらの音楽に触れたことが転機だったと語られるし、ノイ!の一定速度で走り続けるビート(モータリック)や、クラフトワーク『Autobahn』(1974)以降の機械的反復は、高速道路と工場の国のミニマリズムだった。クラフトワークがデトロイトの若者たちに発見され、テクノが生まれたのはよく知られたとおりで、そのテクノがやがて「ミニマル・テクノ」という名のサブジャンル(ロバート・フッド『Minimal Nation』1994などが金字塔とされる)を生むに至って、命名の環は一周する。ダンスフロアの反復と、コンサートホールの反復が、ここで完全に地続きになった。
ただし、影響と収斂は区別しておきたい。1977年にジョルジオ・モロダーとドナ・サマーが「I Feel Love」で示したシーケンサーの反復や、ハウス・ミュージックのループ感覚は、ミニマルの直接の子どもというより、「機械で音楽を作れば反復に行き着く」という同じ発見に、別の道からたどり着いた例に近い。それでも両者が90年代以降に合流し、互いを参照し合うようになったのは本文で見たとおりだ。ポスト・ロックの精緻な反復や、ゲーム音楽のループ構造まで視野に入れれば、反復の語法はもはや特定ジャンルの技法ではなく、現代の音楽全体の共有財産と言っていい。
サンプリング文化との相性も良かった。アンビエント・ハウスの代表格ジ・オーブは、「Little Fluffy Clouds」でライヒの「Electric Counterpoint」を引用したことで知られるし、1999年にはコールドカットやケン・イシイらがライヒ作品を素材にした公認リミックス盤『Reich Remixed』も編まれた。ロックの側では、デヴィッド・ボウイとブライアン・イーノのベルリン期作品にグラスが応答し、『Low』『Heroes』を素材にした交響曲を書いている。レディオヘッドとライヒの相互敬愛も重要で、ジョニー・グリーンウッドが「Electric Counterpoint」を演奏する一方、ライヒはレディオヘッドの2曲を素材にした「Radio Rewrite」(2012)を作曲した。
日本も無縁ではない。久石譲は宮崎アニメの作曲家として知られる以前、ミニマル・ミュージックの作り手として出発しており、初期には打楽器アンサンブルによる『MKWAJU』(1981)関連の制作に関わっていた。同作に参加した打楽器奏者・高田みどりの『鏡の向こう側』(1983)が、近年世界的に再発見されたことも記憶に新しい。さらに視野を広げれば、マックス・リヒターやニルス・フラームらのポスト・クラシカル、映画『コヤニスカッツィ』(1982)以降のミニマル的映画音楽、CMやゲーム音楽の反復語法まで、裾野はほとんど現代の音風景の全域に及ぶ。ミニマルを聴いたことがない人は、実はもういない。名前を知らないだけである。
初めて聴く人の順路——挫折しないための7ステップ
最後に、入門の順路を具体的に示しておく。ミニマルは「どこから聴くか」より「どんな距離感で聴くか」でつまずきやすいので、易しい快楽から核心の実験へ降りていく順番にした。
第一歩は「Music for 18 Musicians」。理屈抜きに気持ちがいいので、ミニマルへの警戒心が最初の10分で解ける。第二歩は「In C」。仕組み(53の音型と自由な進行)を知ってから聴くと、演奏ごとの違いを楽しむ耳ができる。第三歩は『Glassworks』。グラスの旋律の魅力を短時間で知り、第四歩の「A Rainbow in Curved Air」で電子的な陶酔へ進む。ここまでで、ミニマルの「気持ちよさ」の主要な型はひと通り体験できる。
第五歩から核心に入る。「It’s Gonna Rain」と「Piano Phase」で、フェイズ・シフティングという発見の現場に立ち会う。最初は素っ気なく感じるかもしれないが、技法の項を読み返してから聴くと、ズレが開いていく瞬間のスリルが分かるはずだ。第六歩は長尺への挑戦で、「Drumming」か「Music in Twelve Parts」、体力があれば「Einstein on the Beach」へ。完聴を目標にせず、生活の中に流しっぱなしにして、時々耳を戻すという聴き方で構わない。第七歩、最後の深部が「The Well-Tuned Piano」とヤングのドローンの世界である。ニューヨークを訪れる機会があれば、常設インスタレーション「ドリーム・ハウス」で音の中に立つ体験もできる。
聴き方のコツを三つだけ。第一に、変化を「待たない」こと。次の展開を待つ姿勢は、この音楽と相性が悪い。気づいたらいつの間にか変わっていた、が正しい距離感だ。第二に、音量と姿勢を状況で使い分けること。大きめの音量で細部の綾を追う聴き方と、小さめの音量で空間に流す聴き方は、同じ曲でも別の体験になる。第三に、可能ならライブへ行くこと。反復音楽の音圧と持続を身体で浴びる体験は、録音では完全には再現できない。なお「In C」は楽器が少しできれば誰でも演奏に参加できる作品なので、聴くことに飽きたら、弾く側に回るという最終手段まで用意されている。
通勤や散歩の時間を使うのも現実的だ。ミニマルの多くは長尺だが、裏を返せば「途中から聴いても成立する」音楽でもある。25分の通勤で「Drumming」を数日に分けて聴くような分割にも、この音楽は十分に耐える。プレイリストに数曲だけ混ぜて偶然の再会を待つより、一つの作品を一週間かけて住むように聴くほうが、ミニマルの時間感覚には合っている。急がば回れ、ではなく、回ること自体が目的地なのだ。
まとめ——繰り返しの中にしか聴こえない音がある
本稿の要点をまとめる。
- ミニマル・ミュージックは、素材の切り詰めと反復、漸進的な変化を原理とする1960年代アメリカ生まれの潮流である。複雑化する前衛への「もうひとつの前衛」だった
- 創始者はラ・モンテ・ヤング(持続)、テリー・ライリー(反復と即興)、スティーヴ・ライヒ(過程)、フィリップ・グラス(増殖と劇場)の四人
- 技法の鍵はフェイズ・シフティング、加算プロセス、ドローン。いずれも「仕組みが聴こえる」ことを隠さない
- 影響はヴェルヴェット・アンダーグラウンドからクラフトワーク、テクノ、エレクトロニカ、ポスト・クラシカルまで及び、現代の音風景の基礎になっている
- 入門は「Music for 18 Musicians」から。快楽→仕組み→実験→深部の順に降りていくと挫折しにくい
ミニマル・ミュージックが教えてくれるのは、変化がないように見える時間の中にも、耳を澄ませば無数の出来事があるということだ。誰も弾いていない旋律が反復の干渉から立ち上がり、同じフレーズが10分前とは違う音に聴こえる。それらは楽譜のどこにも書かれていない、いわば「そこにない音」である。繰り返しを退屈と切り捨てる前に、一度だけ、繰り返しの内側に立ってみてほしい。扉は「In C」の最初のひと叩きから、いつでも開いている。
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反復音楽の面白さは、音そのものより「自分の耳が変わっていく」のを観察できるところにあると思う。同じはずのフレーズが、10分後にはまるで別の音に聴こえる。楽譜のどこにも書かれていない変化を聴く——当ブログの言う「そこにない音」の、いちばん体感しやすい実例かもしれない。