DACやアンプが要るかどうかは、音質の好みではなく、使っているヘッドホンを目標の音量まで鳴らせる電圧が出ているかで決まる。必要な電圧は感度とインピーダンスの2つから計算でき、手持ちの機種の公表値を当てはめれば、足りているかどうかの当たりが付く。

据置型のUSB DAC(KORG DS-DAC-10)
単体のUSB DACの一例(KORG DS-DAC-10)。出典: Wikimedia Commons(ひでわく / CC BY-SA 2.1 jp)

問いを「音がよくなるか」から動かす

DACとアンプは役割が違う。DACはデジタルの信号を電圧の波形に変換する部分で、アンプはその波形を振動板を動かせる大きさまで持ち上げる部分である。スマートフォンにも変換増幅の回路はどちらも入っているので、直挿しで音が出ている時点で両方とも仕事はしている。したがって「要るかどうか」は、有無の問題ではなく、いま入っているものの能力が足りているかどうかの問題になる。

能力が足りているかは、聴感の印象より先に電気的な条件で決まる部分がある。ヘッドホンをある音量まで鳴らすのに要る電圧は、機種ごとに数値で決まっているからである。ここが足りていなければ、どれだけ音源を良くしても音量そのものが取れない。逆にここが余っているなら、外付けを足しても音量の面では何も変わらない。まずこの一点を切り分ける。

必要な電圧は感度とインピーダンスの2つで決まる

ヘッドホンの仕様表に載っている数字のうち、駆動に効くのは2つである。

  • 感度 一定の電力または電圧を入れたときに何デシベルの音圧が出るかを示す値。「◯◯dB/mW」または「◯◯dB/V」の形で書かれている。
  • インピーダンス 交流に対する抵抗の大きさ。「◯◯Ω」で書かれている。

感度が「dB/mW」表記なら、目標の音圧レベルを出すのに要る電力は次の形で出る。

必要電力[mW]= 10 の(目標音圧 − 感度)÷ 10 乗

電力が出たら、そこから電圧に直す。電力・電圧・インピーダンスの関係は電力=電圧の二乗÷インピーダンスなので、電圧はその逆をたどればよい。

必要電圧[V]= ルート(必要電力[W]× インピーダンス[Ω])

この2式に自分の機種の数字を入れれば、必要な電圧が1つの値として出る。以下の表はその計算を先に済ませたものである。

100デシベルを出すのに要る電圧(計算表)

目標は音圧レベル100デシベルに置いた。音楽は瞬間的なピークが平均の音量より10から20デシベルほど高くなるため、平均を80デシベル前後で聴く場合のピークがおおよそこの辺りに来る、という置き方である。目標を変えたい場合は、10デシベル下げるごとに必要電力が10分の1に、必要電圧はおよそ3分の1になる。

数値は上の2式に当てはめて算出した理論値であり、実測ではない。単位はミリボルト(実効値)。

感度\インピーダンス 16Ω 32Ω 64Ω 150Ω 250Ω 300Ω 600Ω
90dB/mW 400 566 800 1225 1581 1732 2449
95dB/mW 225 318 450 689 889 974 1377
100dB/mW 126 179 253 387 500 548 775
105dB/mW 71 101 142 218 281 308 436

表を横に読むと、同じ感度でもインピーダンスが上がるほど必要な電圧が増えることが分かる。90dB/mWの機種なら16Ωで400ミリボルト、600Ωでは2449ミリボルトで、6倍以上の開きがある。縦に読むと、感度が5デシベル上がるごとに必要電圧がおよそ0.56倍になる。感度105dB/mWで16Ωの機種は71ミリボルトで100デシベルに達する。

必要な電力のほうは感度だけで決まり、インピーダンスには依存しない。90dB/mWなら10ミリワット、95dB/mWなら3.16ミリワット、100dB/mWなら1ミリワット、105dB/mWなら0.32ミリワットである。電流に直すと、最も要求が重い90dB/mW・16Ωの組み合わせで25ミリアンペア、最も軽い105dB/mW・600Ωで0.73ミリアンペアになる。

感度が「dB/V」で書いてある機種の換算

仕様表によっては感度が1ボルトあたりの音圧、つまり「dB/V」で書かれている。表と突き合わせるには、どちらかに揃える必要がある。換算は次の一行で済む。

感度[dB/V]= 感度[dB/mW]+ 30 − 10 ×(インピーダンスの常用対数)

加算される量はインピーダンスだけで決まるので、先に出しておくと早い。16Ωなら+18.0、32Ωなら+14.9、64Ωなら+11.9、150Ωなら+8.2、250Ωなら+6.0、300Ωなら+5.2、600Ωなら+2.2デシベルである。たとえば100dB/mWの32Ωは114.9dB/V、同じ100dB/mWでも600Ωなら102.2dB/Vになる。

この換算を挟むと、なぜ高インピーダンスの機種で電圧が足りなくなりやすいのかが数字として見える。電力あたりの効率が同じでも、電圧あたりの効率は600Ωの側が12デシベル以上低い。

差が出ない場面

ここまでは「足りるか」の話だった。足りている側にいる場合、外付けを足しても変わらない場面がある。

  • 感度が高く低インピーダンスのイヤホンを使っている 表の右下ではなく左下、たとえば105dB/mWで16Ωの機種は71ミリボルトで100デシベルに届く。この領域では、内蔵の回路でも音量が頭打ちになることはまず起きない。
  • すでにボリュームを最大まで上げていない 音量つまみに余裕が残っているなら、電圧は足りている。足りない状態は「上げ切っても小さい」という形で現れるので、判定は聴かなくても分かる。
  • ワイヤレスで聴いている ワイヤレス接続では、デジタル信号を電圧に変換する部分と増幅する部分がイヤホンやヘッドホンの側に入っている。送り出し側に外付けのDACを足しても、その経路には入らない。
  • 音量の不足ではなく音の傾向が不満 周波数特性の傾きや空間の出方は、駆動能力とは別の要素で決まる。ここを変えたい場合に駆動系を替えても、狙った方向に動くとは限らない。

1つ補足しておくと、電圧が足りていることと歪みが少ないことは同じではない。表が示すのは音量が取れるかどうかだけで、その音量での歪率や出力インピーダンスの影響までは含んでいない。ここから先は機種ごとの実測の領域になる。

差が出る場面

逆に、電気的な条件から見て違いが出ると言えるのは次の場合である。

  • 高インピーダンスかつ低感度の機種を使っている 表の右上、たとえば250Ω以上で感度が90dB/mW台の組み合わせは、必要電圧が1ボルトを超える。この帯は内蔵の出力で頭打ちになりやすい。
  • 上げ切っても音量が足りない、あるいは上げ切る手前で音が硬くなる これは足りていない側の典型的な現れ方である。
  • 変換部分を外に出す必要がある接続を使っている 端子の仕様上そのままでは繋がらない場合、変換のための機器がそもそも要る。この場合は音質の判断以前に、接続の可否の問題になる。

注意しておきたいのは、この3つのどれにも当てはまらないのに買い足すと、変化は測れる形では現れにくいという点である。買うかどうかを決める前に、上の表で自分の機種がどの位置にいるかを先に確かめると、判断の材料が1つ増える。

駆動より先に効くものがある

駆動能力は、聴こえ方を決める要素のうちの1つでしかない。実際に体感を大きく動かすのは、機材より手前の条件であることが多い。

音量を上げずに済むかどうかは、部屋の暗騒音と遮音で決まる。この観点は開放型と密閉型の使い分けで住環境の騒音値から整理した。小さな音量で低域が痩せて聴こえる現象は聴覚の側の性質によるもので、夜の小音量に向くヘッドホンの条件で等ラウドネス曲線から扱っている。音源側の解像度が実際に効く条件については音楽サブスクの音質比較にまとめた。

順序としては、環境と音源を先に整えてから駆動系を見るほうが、投じた分の変化が分かりやすい。表で自分の機種が左下の領域にいるなら、なおさらそちらが先になる。