サカナクションの7作目のアルバム『834.194』は2019年6月19日に発売された。前作『sakanaction』は2013年3月13日。間隔は2,289日、およそ6年3か月であり、当時この作品は「6年ぶり」の言葉とともに受け取られた。だがビクターの公式ディスコグラフィで発売日を並べ直すと、この6年3か月の前半には4枚のシングルがほぼ年1枚の間隔で並び、後半のベスト盤には映画主題歌の新曲が1曲収められている。新しい曲がまったく出なかった期間は、数え直すと最長でも525日、1年5か月である。本稿は「6年の沈黙」という通説を、発売日という最も固い一次情報だけで数え直す。
「6年ぶり」はどこまで正確か
まず「6年ぶり」自体は誤りではない。アルバムからアルバムまでを数えるなら2,289日で、6年(2,190日)と99日。この数え方において「6年ぶりの新作アルバム」は正確な表現である。7年に丸めず6年と言えるのは99日の端数が1年に届かないからで、つまりこの「6年」は切り捨ての値である。通説は最初から、数字の扱いとしては控えめな側にいる。
問題は、この数字が「6年間何も出していなかった」という印象に横滑りすることのほうにある。間隔の長さと空白の長さは別の量である。前者はアルバム2点間の距離であり、後者はその区間に何があったかを数えて初めて分かる。そして後者を数えるための材料は、権利元であるビクターエンタテインメントの公式ディスコグラフィにすべて揃っている。
発売日を全部並べる
『sakanaction』から『834.194』までの間に公式ディスコグラフィへ刻まれたリリースを、品番つきで時系列に置く。いずれも2026年8月13日にビクターの製品ページで発売日と品番を確認した。
| 発売日 | 作品 | 形態 | 品番 |
|---|---|---|---|
| 2013-03-13 | sakanaction | アルバム | VICL-63999 |
| 2014-01-15 | グッドバイ/ユリイカ | シングル | VIZL-607 |
| 2014-10-29 | さよならはエモーション/蓮の花 | シングル | VICL-36963ほか |
| 2015-09-30 | 新宝島 | 12cmシングル | VICL-37102 |
| 2016-10-19 | 多分、風。 | 12cmシングル | VICL-37211 |
| 2018-03-28 | 魚図鑑 | ベストアルバム | VIZL-1372ほか |
| 2019-06-19 | 834.194 | アルバム | VICL-65194~5 |
映像作品とリミックス集はこの表に入れていない。「新しい楽曲が世に出たか」を数えるのが目的なので、母集団は音源のオリジナルリリースに絞った。公式ディスコグラフィにはリアレンジ&リミックス集『懐かしい月は新しい月』の系列やライブ映像作品も並ぶが、これらは既発曲の別バージョンにあたるため同じ理由で外している。ベストアルバム『魚図鑑』を表に残したのは、次の節で述べるとおり、空白の中間点に置かれた作品として意味を持つからである。
間隔を数え直す
表の隣り合う2点の間隔を日数にする。
| 区間 | 日数 | 目安 |
|---|---|---|
| sakanaction → グッドバイ/ユリイカ | 308日 | 約10か月 |
| グッドバイ/ユリイカ → さよならはエモーション | 287日 | 約9か月半 |
| さよならはエモーション → 新宝島 | 336日 | 約11か月 |
| 新宝島 → 多分、風。 | 385日 | 約12か月半 |
| 多分、風。 → 魚図鑑 | 525日 | 約1年5か月 |
| 魚図鑑 → 834.194 | 448日 | 約1年3か月 |
2013年から2016年まで、リリースの間隔は287日から385日の帯に収まっている。おおむね年に1枚、シングルが出続けていたということである。「6年の沈黙」と呼ばれた期間の前半は、少なくとも発売日の上では沈黙ではなく、年1枚ペースの定常運転だった。
変化が起きるのは「多分、風。」の後である。次のオリジナル音源まで525日、そこから本作までさらに448日。それまで300日台で刻まれていた間隔が、突然1.5倍に伸びる。折れ線を思い浮かべれば、2016年10月を境に傾きが変わる形であり、「6年」という一様な長さではなく、「3年半の定常運転+2年8か月の空白」という二段構えが実際の形である。
シングル4枚の中身 — 「空白」期の1枚がどれだけ厚いか
年1枚のシングルと書いたが、この時期のシングルは表題曲1曲の薄いパッケージではない。製品ページの記載をそのまま並べる。
| シングル | 収録内容(公式記載) | タイアップ |
|---|---|---|
| グッドバイ/ユリイカ (2014-01-15) |
グッドバイ/ユリイカ/映画(AOKI takamasa Remix)+DVD(ユリイカMV・幕張メッセ公演の舞台裏映像) | — |
| さよならはエモーション/蓮の花 (2014-10-29) |
さよならはエモーション/蓮の花/Ame(B) -SAKANATRIBE × ATM version-/ミュージック(Cornelius Remix) | 東進CM/映画「近キョリ恋愛」主題歌 |
| 新宝島 (2015-09-30) |
新宝島/「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」/インナーワールド(AOKI takamasa Remix)/新宝島(Instrumental) | 映画「バクマン。」主題歌 |
| 多分、風。 (2016-10-19) |
多分、風。/moon/ルーキー(Hiroshi Fujiwara Remix) | 資生堂「アネッサ」CM/au×HAKUTO CM |
どの盤もダブルAサイドか、新曲+新曲+リミックスの3〜4曲構成である。リミックスの依頼先にはCorneliusやHiroshi Fujiwaraの名前が並び、映像や長尺ブックレットが付く形態もある。年1枚とはいえ、1枚あたりの中身はかつての「シングル盤」の語感よりずっと厚い。この期間を「沈黙」と括る言葉は、この物量の前では成立しにくい。
1枚ずつ見ると、それぞれに読みどころがある。2014年1月の「グッドバイ/ユリイカ」は、DVDに前作『sakanaction』のツアーである幕張メッセ公演の舞台裏映像を収めている。前作の記録と次の新曲が1枚のパッケージに同居しており、アルバムとアルバムの間が地続きであることを、収録内容がそのまま示している。同年10月の「さよならはエモーション/蓮の花」は映画主題歌と全国模試CMという2つのタイアップを背負ったダブルAサイドで、カップリングには「Ame(B)」のライブ編成版とCorneliusによる「ミュージック」のリミックスが入る。
2015年9月の「新宝島」は映画「バクマン。」の主題歌である。ここで注目したいのはカップリングの「『聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに』」で、この曲は4年後の『834.194』のDisc 1にそのまま収録されることになる。アルバムの部品が、発売の4年前にすでに世へ出ていたということである。2016年10月の「多分、風。」は資生堂とauのCMソング2曲に、Hiroshi Fujiwaraのリミックスを加えた3曲構成。リミックスの人選がAOKI takamasa(2014年と2015年に各1回)、Cornelius、Hiroshi Fujiwaraと電子音楽・デザイン文化圏で一貫していることも、曲目の並びから読み取れる事実である。
空白の中でレーベルが変わっている
製品ページには、もうひとつ見落とせない記載の変化がある。レーベル表記である。2014年の「さよならはエモーション/蓮の花」まではVictor表記だが、2015年の「新宝島」からはNF Records表記に変わり、以後「多分、風。」『魚図鑑』『834.194』まで一貫してNF Recordsが記されている。
さらに『魚図鑑』初回盤のライブ映像アーカイブの収録元一覧には、「SAKANAQUARIUM 2015-2016 “NF Records launch tour” -LIVE at NIPPON BUDOKAN 2015.10.27-」という公演名が記載されている。つまり「新宝島」の直後、2015年10月には自らのレーベルの立ち上げを冠したツアーが武道館で行われていた。アルバムが出なかった6年余りの中盤で、作品を出す器そのものを作り替える作業が進んでいたことが、レーベル表記と公演名という2つの公式記載から確認できる。アルバムだけを数える物差しには、この種の活動も映らない。
残る空白にも、新曲が1曲ある
それでも「多分、風。」から『834.194』までの973日は、シングルが1枚も出ていない。ここが本当の空白かというと、実はそうでもない。この973日のほぼ中間、525日目に置かれたベストアルバム『魚図鑑』(2018年3月28日)の製品ページには、こう記載されている——Disc 1に、映画「曇天に笑う」主題歌の新曲「陽炎 -movie version-」を収録。映画用に書き下ろされたバージョンである。
つまりベスト盤の中に新曲が1曲埋め込まれており、新しい楽曲がまったく世に出なかった期間は「多分、風。」から『魚図鑑』までの525日と、『魚図鑑』から『834.194』までの448日に分割される。最長でも1年5か月。「6年の沈黙」は、数え直すたびに短くなっていく。
そして「陽炎」は『834.194』のDisc 1の3曲目に収録されている。ベスト盤に先行して置かれた新曲がアルバムに回収される——この配置は、『魚図鑑』が単なる過去の整理ではなく、次のアルバムへの橋として機能していたことを、発売日と曲目の並びだけで示している。ここまでは日付から言える範囲であり、それがバンドの意図だったかどうかは本稿では扱わない。
『魚図鑑』はどういう棚卸しだったか
橋としての『魚図鑑』の作りも、製品ページの記載から具体的に分かる。CDは2枚で全34曲。Disc 1は「浅瀬」、Disc 2は「中層」と名付けられ、魚類図鑑の体裁でキャリアを分類し直す構成である。新曲「陽炎 -movie version-」は「浅瀬」の17曲目、すなわちディスクの最後に置かれている。ベスト盤の聴き終わりが唯一の新曲になる——過去の整理の出口に次作の入口を接続する配置であり、これも曲順という動かない事実から読める設計である。
初回生産限定盤には「SAKANAQUARIUM ARCHIVE」として、2009年以降のライブ映像作品から選ばれた20曲・約100分の映像が付く。製品ページに列挙された収録元を並べると、2009年の札幌PENNY LANE 24公演に始まり、2010年の2公演、2011年の幕張メッセ(DocumentaLyツアー)、2013年の幕張メッセ(sakanactionツアー)、2014年のTOKYO DOME CITY HALL(SAKANATRIBE名義)、そして2015年10月27日の日本武道館(NF Records launch tour)まで、映像作品の系列が途切れなく続いている。2014年と2015年——つまり「沈黙」と呼ばれた期間のただ中——にも、映像作品として残る規模の公演が行われていた。シングルの発売日だけでなく、ステージの記録から見ても、この期間のバンドは動き続けていた。
アルバム自身が「沈黙ではなかった」ことの記録になっている
『834.194』の製品ページには2枚組の曲目が載っている。これを先の発売日表と突き合わせると、興味深いことが分かる。
Disc 2は「グッドバイ」「蓮の花」「ユリイカ」「さよならはエモーション」を含み、Disc 1は「多分、風。」「新宝島」を含む。つまり2014年から2016年に出た4枚のシングルの主要曲は、ほぼすべて本作に収録されている。「6年の沈黙」の間に出た楽曲たちが、その「6年ぶりのアルバム」の背骨になっている——アルバムの曲目それ自体が、沈黙ではなかったことの一次資料になっているのである。
全18曲について、本稿で初出を確認できた範囲を対応表にしておく。
| Disc 1「35 38 52 9000」 | 確認できた初出 | Disc 2「139 41 39 3000」 | 確認できた初出 |
|---|---|---|---|
| 01 忘れられないの | 本稿未確認 | 01 グッドバイ | 2014-01-15 シングル |
| 02 マッチとピーナッツ | 本稿未確認 | 02 蓮の花 | 2014-10-29 シングル |
| 03 陽炎 | 2018-03-28『魚図鑑』(movie version) | 03 ユリイカ | 2014-01-15 シングル |
| 04 多分、風。 | 2016-10-19 シングル | 04 ナイロンの糸 | 本稿未確認 |
| 05 新宝島 | 2015-09-30 シングル | 05 茶柱 | 本稿未確認 |
| 06 モス | 本稿未確認 | 06 ワンダーランド | 本稿未確認 |
| 07 「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」 | 2015-09-30 シングル収録 | 07 さよならはエモーション | 2014-10-29 シングル |
| 08 ユリイカ (Shotaro Aoyama Remix) | 原曲は2014-01-15 | 08 834.194 | 本稿未確認 |
| 09 セプテンバー -東京 version- | 本稿未確認 | 09 セプテンバー -札幌 version- | 本稿未確認 |
確認できた初出だけ数えても、18曲中8曲が2014年から2018年のリリースに由来する。曲目にはもうひとつ、構造上の対称がある。Disc 1の末尾には「セプテンバー -東京 version-」、Disc 2の末尾には「セプテンバー -札幌 version-」が置かれ、同じ曲の2つのバージョンが2枚のディスクをそれぞれ閉じる。札幌と東京はこのバンドの結成地と活動拠点であり、2枚が対になる設計は曲目リストを眺めるだけでも読み取れる。
ディスクの名前にも触れておく。製品ページで2枚は「35 38 52 9000」「139 41 39 3000」という数字の列で表記されている。2つを続けて読むと、度・分・秒で書いた緯度と経度の書式(北緯35度38分52.9秒/東経139度41分39.3秒)にちょうど一致する形であり、その値は東京都心の一点を指す。アルバム題の「834.194」も小数を含む数値である。ただし、これらの数字が何を意味するかについて公式の説明を本稿では確認できていないので、「緯度経度の書式と一致する」という観察までにとどめ、断定はしない。
「発表日」という物差しで測れないもの
ここまでの検証はすべて「発売日」に基づいている。この物差しには限界があり、それを断っておく必要がある。発売日は楽曲が世に出た日であって、書かれた日でも録音された日でもない。たとえば「新宝島」が2015年9月30日に出たことは、その曲が2015年に作られたことを意味しない。発表の間隔から制作の空白を推し量ることは、原理的にできないのである。
この「発表年は録音年ではない」という問題は、ジャンルを問わず年表を読むときの普遍的な落とし穴で、当サイトではクラウトロック入門で、録音から発表まで21年ずれた実例(Harmonia & Enoの1976年録音・1997年発表)とともに詳しく扱った。本稿が「空白は2年8か月」と書くとき、それはリリースの空白であって制作の空白ではない。その2年8か月の間にも曲は書かれ、録られていた可能性が高い——が、それは発売日からは見えない領域であり、本稿の射程の外である。
なぜ「6年」に丸められるのか
それにしても、なぜ年1枚シングルが出ていた期間まで含めて「沈黙」と呼ばれがちなのか。ひとつの説明は、アルバムだけを「作品」として数える勘定の習慣である。アルバム単位で数えれば前作は2013年、本作は2019年、間は空白——この数え方は昭和のLP時代に形成され、配信が主流になった現在も言葉の上に残っている。
だが2014年から2016年のサカナクションのリリース形態を見ると、12cmシングルにリミックスやライブ映像を付けた複合的なパッケージが並んでいて、1枚あたりの情報量はかつての「シングル」より明らかに厚い。アルバムだけを数える物差しでは、この期間の活動が構造的に見えなくなる。「6年の沈黙」という通説は、事実の誤りというより、物差しの選び方が生んだ錯視だと言ったほうが正確である。
ベスト盤の扱いも、この勘定の習慣をよく映す。『魚図鑑』は34曲2枚組で新曲を含む「アルバム」だが、「6年ぶりのアルバム」という言い方の中では数えられていない。ベスト盤はアルバムに数えない、という暗黙の規則がそこにはある。規則自体の是非を言いたいのではない。どの規則で数えたかを明示しないまま「◯年ぶり」という数字だけが流通することが、錯視の正体だと言いたいのである。本稿の「2,289日」「525日」は、どちらも数え方を明示した上での値である。
同じ錯視は他のアーティストにも起きる。アルバム間隔が開いたと言われるバンドの活動年表を数え直すと、シングル・配信・客演が埋まっていることは珍しくない。「◯年ぶり」という言葉を見たら、その◯年に何が出ていたかを公式ディスコグラフィで数え直す——本稿がやったのはそれだけのことであり、同じ手順は誰のディスコグラフィにも適用できる。
同じ数え直しを自分でやる手順
手順を書き残しておく。第一に、出所はレコード会社の製品ページを最優先にする。アーティスト公式サイトのディスコグラフィは改装で消えることがあり、ファンサイトやデータベースは編集者が入力した二次情報である。品番と発売日が一枚ずつ載っている製品ページが、年表の材料としては最も固い。第二に、アルバムだけでなくシングルとベスト盤を全部拾い、発売日で一列に並べる。第三に、隣り合う2点の間隔を日数にする。「◯年ぶり」の印象は年単位の丸めが作るので、日数に開くだけで見え方が変わる。第四に、ベスト盤や企画盤の曲目に新曲が混ざっていないかを確認する。今回の「陽炎」のように、空白を分割する1曲が企画盤の中に埋まっていることがある。第五に、同じ曲でも表記の揺れに気をつける。「陽炎 -movie version-」(『魚図鑑』)と「陽炎」(『834.194』)のように、バージョン表記の有無で別の録音を指している場合があり、初出の判定は表記まで含めて突き合わせる必要がある。
この手順で崩れない「◯年ぶり」なら、それは本当に空白だったということであり、それはそれで確かめる価値のある事実である。
この盤から広がる聴き方
発売日の検証は、聴き方の提案にもなる。『834.194』の収録曲のうち、先に世に出ていたことを本稿で確認できたのは、シングル表題曲6曲と「陽炎」の計7曲である。アルバムの曲順で聴くのが第一だが、二周目にこの7曲を初出順に並べ直して聴くと、2枚組に再配置される前の5年半を時系列で辿り直すことになる。並びはこうなる。
- グッドバイ(2014-01-15)
- ユリイカ(同上)
- さよならはエモーション(2014-10-29)
- 蓮の花(同上)
- 新宝島(2015-09-30)
- 多分、風。(2016-10-19)
- 陽炎(2018-03-28・movie versionとして)
アルバムではDisc 2の奥に置かれた2014年組から始まり、Disc 1の中央に散った後半組へ進む逆走の順路である。2014年の2枚から「新宝島」までの一年刻みの変化は、発売日表を横に置いて聴くときにいちばんよく見える。さらに掘るなら、各シングルのカップリングに残ってアルバムへ収録されなかった曲——「moon」「Ame(B)」の別バージョン、各リミックス——を拾い直す聴き方もある。アルバムという完成形から漏れたものの側に、この5年半の試行の痕跡が残っている。
バンドの音楽の入口をもっと手前から取りたい場合は、バンド編成の音楽で「引き算」がどう働くかを扱ったオルタナ入門が本稿の隣に置ける。また、こうした聴き比べを腰を据えてやるなら、再生環境を一度整えておくと差分がよく見える。当サイトのレコード入門は最初に揃える3点と置き場所の話から書いているので、環境側から入りたい読者はそちらへ。
『834.194』はストリーミング各社で配信されている。Spotifyで『834.194』を検索する。フィジカルは通常盤の2枚組CD(VICL-65194~5)のほか、公式ディスコグラフィにはBlu-ray付属の完全生産限定盤A(VIZL-1590)とDVD付属の完全生産限定盤B(VIZL-1591)が並び、2026年7月22日には2枚組アナログ盤も加わった。どの形態でもDisc 1とDisc 2の対の構造は同じなので、本稿の読み方はそのまま使える。
この検証が否定していないもの
ここまで「6年の沈黙」を数字で崩してきたが、この言葉が指していた実感まで否定するつもりはない。アルバムという単位には、シングルの集積では代替できない重さがある。曲を選び、並べ、2枚組なら2枚の関係まで設計する——その単位の新作が6年3か月出なかったこと自体は、数え直しても動かない事実である。ファンが待ったのは曲ではなくアルバムだった、という言い方も成り立つ。
本稿が言いたいのは、その待ち時間の中身が空白ではなかった、ということに尽きる。年1枚のシングル、レーベルの立ち上げ、武道館を含むツアー、34曲の棚卸しと新曲1曲。「沈黙」という言葉はこれらを消してしまうが、発売日と品番の列は消えずに残っている。通説と一次情報が食い違うとき、直せるのは通説のほうである。
年表はいまも伸びている
この検証を書いている2026年8月の時点で、公式ディスコグラフィにはもうひとつの動きが記録されている。2026年7月22日に『sakanaction』『DocumentaLy』『834.194』の3作がアナログ盤で再発され(『834.194』は12,760円の2枚組仕様)、2026年9月2日には新作シングル「怪獣/いらない」の発売が予定されている。ニュース欄には「怪獣」がヒット曲として言及されており、本稿が数え直した「6年」の後も、リリースの列は現在まで途切れずに続いている。
『834.194』が発売から7年を経てアナログで買い直せる形になったことは、この2枚組が「6年ぶりの新作」という当時の文脈を離れて、カタログとして聴かれる段階に入ったことを意味する。通説を数え直すには、ちょうどよい時点である。
この記事を書くために辿った出所
本稿の発売日と品番は、すべてビクターエンタテインメント公式サイトの製品ページで2026年8月13日に確認した。『sakanaction』(VICL-63999)、「グッドバイ/ユリイカ」(VIZL-607)、「さよならはエモーション/蓮の花」(特設ページおよびVICL-36963)、「新宝島」(VICL-37102)、「多分、風。」(VICL-37211)、『魚図鑑』(VIZL-1372)、『834.194』(VICL-65194~5)の7点である。曲目・タイアップ・レーベル表記・ライブ映像アーカイブの収録元も同じ製品ページの記載に拠った。日数の計算は暦日で行い、丸めは「か月」の表記にのみ使った。
付記しておきたいのは、出所の挙動が日によって違ったことである。『834.194』の製品ページは、前日の閲覧では発売日・品番・価格しか取得できず、曲目が読めなかった。本稿の執筆時に再度取得したところ、2枚組の曲目まで完全な形で返ってきた。動的に組み立てられるページは、取得の仕方や時点によって見える情報が変わる。公式サイトに「無い」と断定する前に、日を変えて取り直す価値があることを、この記事自身が実証する形になった。
この記事の限界
3点ある。第一に、本稿は発売日というリリース側の事実だけを扱っており、制作の経緯・バンドの発言・意図には踏み込んでいない。「なぜアルバムに6年かかったか」という問いには、本稿はそもそも答えていない。
第二に、収録曲の初出形態を全曲分は確認していない。シングル表題曲6曲の初出は発売日表のとおりだが、残りの収録曲がアルバム初出なのか、配信や他の形で先行していたのかは、本稿の確認範囲の外にある。
第三に、リリースの母集団はビクター公式ディスコグラフィのフィジカル音源に拠っており、配信限定のリリース・他レーベルからの参加作品・提供曲・客演は数えていない。「新曲の空白は最長525日」という数字は、この母集団の内側でのみ成立する値である。配信まで母集団を広げれば、空白はさらに短くなる可能性が高い。つまり本稿の数え直しは、まだ「沈黙」を長めに見積もっている側なのである。
第四に、「6年の沈黙」という言い回しそのものの出所——誰が最初にそう呼び、どの媒体で流通したのか——を本稿は特定していない。通説の中身は検証したが、通説の来歴は未検証である。言葉の側の年表は、また別の調べものになる。